この記事でわかること
- デザインがおしゃれな見た目だけではない理由
- ナイキのロゴから考える、デザインと事業の関係
- デザインに一つの正解がないからこその難しさ
- 制作前のヒアリングで大切にしていること
- 伝えたい思いを形にするための考え方
デザインと聞くと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。
おしゃれなロゴ、洗練されたポスター、センスのあるWebサイト。私自身も、デザインに興味を持ち始めた頃は、どこかそのようなイメージを持っていました。
しかし、実際にデザイン制作を続けていく中で、少しずつ考え方が変わってきました。
デザインで本当に大切なのは、単におしゃれでハイセンスなものを作ることではありません。誰かが伝えたいと思っていることを整理し、それを目に見える形へ変えていくことなのではないか。
私は今、このように考えています。
有名なロゴは、最初から特別だったのか
デザインについて考えるとき、私がよく思い浮かべるのがナイキのロゴです。
あのシンプルな形を見れば、多くの人がナイキを思い浮かべるのではないでしょうか。スポーツ、スピード、挑戦といったブランドのイメージまで、自然に連想する人もいると思います。
では、ナイキのロゴは、最初から誰もが認める完璧なデザインだったのでしょうか。
ナイキの公式サイトによると、スウッシュと呼ばれるロゴを制作したのは、当時ポートランド州立大学でデザインを学んでいたキャロライン・デビッドソンです。
彼女は動きを感じさせる形としてロゴを提案しましたが、共同創業者のフィル・ナイトは、最初から強く気に入っていたわけではなかったそうです。それでも、商品の生産を進めるためにデザインが採用されました。
現在では世界的に知られているロゴも、誕生した瞬間から全員が納得する「正解」だったわけではありません。
この話を知ったとき、私はデザインの見方が少し変わりました。
ロゴを正解にしたのは、事業の積み重ねだった
ナイキのロゴが広く知られるようになったのは、形がおしゃれだったからだけではないと思います。
魅力的な商品を作り、スポーツの世界で挑戦を続け、ブランドとしての価値を積み上げてきた。その事業の歴史とともに、スウッシュの意味も大きくなっていったのではないでしょうか。
つまり、ロゴだけがブランドを作ったのではなく、事業や活動の積み重ねが、ロゴを特別な存在にしていったということです。
ロゴは、作って完成ではありません。
その後にどのような商品やサービスを届けるのか。どのような姿勢でお客様と向き合うのか。何を大切にしながら活動を続けるのか。
そうした日々の積み重ねによって、最初は何も意味を持っていなかった形に、少しずつ物語が加わっていきます。
デザイナーが一方的に正解を作るというよりも、依頼する人や事業そのものが、時間をかけてデザインを正解にしていく。
私はこの考え方に、デザインの面白さと奥深さを感じています。
デザインには一つの正解がない
デザイン制作が難しい理由の一つは、計算問題のような明確な正解がないことです。
同じテーマで複数のデザインを作ったとしても、人によって感じ方は異なります。シンプルなデザインを良いと思う人もいれば、情報量の多いデザインを魅力的に感じる人もいます。
流行している表現を取り入れたからといって、その事業に合うとも限りません。
もちろん、文字の読みやすさや情報の優先順位、余白、色の使い方など、制作するうえで学ぶべき基本はあります。しかし、それらを守れば自動的に良いデザインが完成するわけではありません。
誰に向けたものなのか。
何を伝えたいのか。
見た人にどのような印象を持ってほしいのか。
そのデザインを通じて、どのような行動につなげたいのか。
こうした前提によって、選ぶべき表現は変わります。
正解がないからこそ難しい。しかし、相手の思いや事業を深く考えながら、一つの形を探していく過程に、私は強く興味を抱いています。
制作前のヒアリングを大切にする理由
私がデザイン制作で特に大切にしているのが、制作前のヒアリングです。
「どのような雰囲気が好きですか」と聞くだけではなく、そのデザインを通じて何を伝えたいのかを確認するようにしています。
例えば、ロゴを作る場合でも、単に好きな色や形を聞くだけでは十分ではありません。
なぜその事業を始めたのか。どのような人に利用してほしいのか。商品やサービスを通じて、どのような価値を届けたいのか。数年後、どのような存在になっていたいのか。
こうした話の中に、デザインの中心となる考え方が隠れていることがあります。
依頼する側も、最初から伝えたいことを明確な言葉にできるとは限りません。話しているうちに考えが整理され、「本当に伝えたかったのはこれかもしれない」と見えてくることもあります。
だから私は、ヒアリングもデザイン制作の一部だと考えています。
目に見えるものを作り始める前に、まだ形になっていない思いを一緒に整理する。その過程があるからこそ、色や文字、形を選ぶ理由が生まれます。
おしゃれは目的ではなく、伝えるための手段
おしゃれなデザインを否定したいわけではありません。
見た目の美しさは、人の興味を引き、内容を読んでもらうための大切な力です。整ったレイアウトや魅力的な色使いによって、商品やサービスの印象が伝わりやすくなることもあります。
ただし、おしゃれにすること自体が最終目的になってしまうと、本当に伝えたかったことが置き去りになる可能性があります。
流行しているから、この色を使う。
格好よく見えるから、この書体を使う。
余白を広くすると洗練されて見えるから、情報を減らす。
それぞれの判断に理由があり、伝えたい思いと一致しているのであれば問題ありません。しかし、見た目だけを整えた結果、その事業らしさが消えてしまっては、少しもったいないと感じます。
デザインは、依頼する人よりもデザイナー自身を目立たせるものではありません。
主役は、そこに込められた思いや、届けたい商品、サービス、活動です。
デザインは、それらが相手に伝わるように支える役割を持っています。
まずは「何を伝えたいか」を言葉にしてみる
デザインを考えるとき、いきなり色や形を決める必要はありません。
まずは、次のようなことを短い言葉で書き出してみるのも一つの方法です。
「誰に届けたいのか」
「一番伝えたいことは何か」
「どのような印象を持ってほしいのか」
「自分たちらしさはどこにあるのか」
きれいな文章にする必要はありません。単語や箇条書きでも十分です。
私の場合は、頭の中にある考えを一度言葉にしてから、図や色、文字へ置き換えていくと、制作の方向性を考えやすくなります。
もちろん、一度で完璧な答えを出す必要もありません。仮の言葉を置き、デザインにしてみて、違和感があればまた考え直す。
まずは小さく試してみることで、自分に合う表現が少しずつ見えてくることがあります。
まとめ
デザインは、おしゃれでハイセンスなものを作ることだけではありません。
伝えたい思いを整理し、それを相手へ届く形に変えていくこと。それが、デザイン制作の大切な役割だと私は考えています。
ナイキのロゴも、誕生した瞬間から世界的な意味を持っていたわけではありません。事業や商品、活動の積み重ねによって、あの形に大きな価値が加わっていきました。
だからこそ、デザインだけで最初から完璧な正解を出そうとしなくてもよいのかもしれません。
まずは、何を伝えたいのかを考える。仮の形を作ってみる。そして、活動を続けながら少しずつ意味を育てていく。
人生をシミュレーションするように、デザインも試しながら自分たちに合う形を探していくものです。
私はこれからも、見た目を整えることだけではなく、その奥にある思いを丁寧に聞きながら、一つずつ形にしていきたいと思います。